大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(ラ)808号 決定

一 本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二 そこで、抗告人の本件仮処分申請の当否について考察する。

1 疎明資料によれば、抗告人は、名称を「イオン交換水蒸留装置」とする実用新案登録第一〇五九七七一号(昭和四四年四月三〇日出願、昭和四九年一一月二〇日登録)の実用新案権者であること、相手方株式会社東洋製作所は、原決定添付の物件目録記載の物件(以下、「本件物件」という。)を製造してその余の相手方らに販売し、同相手方らは、これを一般顧客に販売していることが認められる。

2 本件考案の実用新案公報である甲第一号証によれば、本件考案は、これを分説すると、

(イ) 原水をイオン交換器に供給し、このイオン交換器において採取された水をボイラ及び凝縮器を通して蒸留し、この蒸留水を蒸留水タンクに貯留させるようにしたイオン交換水蒸留装置において、

(ロ) 流量調整用オーバフロー機構を設けた原水系及び凝縮器の冷却水系にそれぞれソレノイド弁を組込み、

(ハ) 蒸留水タンクに受圧器によつて開閉されるスイツチを設けて、

(ニ) このスイツチにより両ソレノイド弁及びボイラの加熱器を制御動作させるようにした

(ホ) イオン交換水蒸留装置

であることを構成要件とするものと認められる。そして、右(ロ)の要件中の原水系に設けられた流量調整用オーバフロー機構については、明細書の「考案の詳細な説明」には「水位設定器7は、余剰の原水を排出するオーバフロー管9を備え、このオーバフロー管9は上下に移動でき、その上下位置は後述するボイラの蒸発量に見合うイオン交換水が得られるようイオン交換器3に対する水頭をもつて予め定位することができる。」(公報一頁右欄一四行から一九行まで)、「水位設定器7を用いることにより、オーバフロー管9の位置調節のみでイオン交換水の生産量とボイラの蒸発量とを容易に一致させることができる。」(同二頁右欄九行から一二行まで)との記載があり、これらの記載からすると、本件考案における流量調整用オーバフロー機構は、その名称の示すとおり、ボイラにおける蒸発量に見合うところのイオン交換水を得るために流量を調節することを目的とするものであり、かつ、そのような作用効果を収めることが明らかである。また、明細書のその余の記載によれば、本件考案においては、原水取入口と流量調整用オーバフロー機構の間にソレノイド弁が組込まれており、ボイラにおける蒸発量に見合うところのイオン交換水を得るため流量が調整されることに伴い、右弁の開閉操作によつて原水の流入が自動的に調整される仕組になつていることが認められるので、過量の原水が流入する事態は起りえないものであつて、その意味において、その流量調整用オーバフロー機構には過量原水流入防止の目的及び作用効果はないものと解される。

これに対し、原決定添付の物件目録、特にその図面に徴すれば、本件物件における圧力式オーバーフローは、構成上、装置本体へ原水を流入させる原水取入口と直結(オーバーフロー機構と右取入口との間に弁は設けられていない。)した箱形のものであつて、下方に原水取入用の管、上方にオーバーフロー用の管を備えるだけのものであること、そして、圧力式オーバーフローを経由した原水を原水兼冷却水として交換水蒸留装置本体へ取入れるに際し、原水の圧力が上昇して流量が増加したときには、過量の水を右オーバーフロー用の管から溢水させることによつて、その装置本体への流入を防止することを目的とし、かつ、そのような作用効果を収めるものであること、他面、本件物件においては、本件考案のものとは異なり、イオン交換水貯水タンクが別途に設けられているため、ボイラにおける蒸発量に見合うところのイオン交換水は随時右貯水タンクから得られるのであつて、イオン交換水の生産量とボイラにおける蒸発量とを常時一致させるための流量調節の必要はもともとないものであることが認められる。

したがつて、本件物件における圧力式オーバーフローは、本件考案における流量調整用オーバフロー機構といわゆる溢流現象を利用する機素である点において共通性はあるけれども、その目的及び作用効果において全く異なるものがあり、本件考案にいう流量調整用のオーバフロー機構には該当しないものといわねばならない。

3 以上のとおりであつて、本件物件は、本件考案における前記(ロ)の要件中原水系に設けられた流量調整用オーバフロー機構を欠如するから、その余の点について対照するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属するものとはいうことができない。したがつて、抗告人の本件仮処分申請は、被保全権利について疎明がないことに帰し、疎明に代る保証を立てさせて仮処分命令を発することも相当ではない。

三 よつて、抗告人の右申請を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものとする。

〔編註〕本判示は左の抗告理由に対する判断である。

一 裁判所は、抗告人の仮処分申請を理由なしとして却下したが、抗告人の申請は法律上の理由からもまた証拠の点からも、理由があるから、原決定を取り消して、別紙記載のような仮処分命令を求める。

二 さらに、原審裁判所は、イ号物件の圧力式オーバーフローが本件考案の原水系に設けられた流量調整オーバーフローと異なる旨認定しているが、右認定はオーバーフロー機能につき誤つた認識に立脚するものである。

三 また、原審判決は、イオン交換水を独自に取り出し利用するイ号物件は本件考案の装置の中でイオン交換水をボイラーに供給する部分に単なる自動化のためのモーターポンプ等を挿入しただけのことであり、本願考案の一利用形態であることを無視している。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!